商家秘録 その2


二 米商い覚悟心得の事
米相場は米の値段の戦いである。
昔、今川義元は緒戦に圧勝したため敵を侮り勝ち誇って桶狭間に陣していた。
そこに織田信長が閑道より逆襲して、わずか三千の兵で義元の二万の兵に打ち勝った。

これを相場に例えれば、米の値段がだんだん高くなり、一向に下がる気配を見せず、買い人気が優勢の時、その虚実を考え売り出動すると、その僅かの売り注文がきっかけで買い人気が崩れ、下がることがある。
この理を考え、人気が偏った時は、変化の兆しであると知るべきである。

また、昔 足利尊氏が京の戦に負け西国に敗走した時、追撃して討ち取るべきところを、大将の新田義貞は追撃を怠った。楠正成は今追撃しなければ敵は勢力を取り戻すと再三諌めたが義貞はそれを聞かなかった。
はたして、足利尊氏は西国の兵を結集し京に攻め上ってきたため、義貞は敗北してしまった。

これも相場の良い手本である。例えば米の値段がだんだん下がる時、追っかけて売り乗せる。これは敗走する敵を追うに等しい。その機をはずしてはならない。
安値で手仕舞いする時には過分な儲けを手にすることができよう。
しかし、万一追撃売りした米が裏事情によって、だんだん高くなってきて、初めより高くなることがある。この時にはけっして向ってはならない。
これらを教訓として万事にあてはめ考えるべきである。
買いの場合も売りと同様である。
こうした高下は一日の内に起きることがある。また五日 十日 一月 二月の日柄で起きることがあるから深く考えるべきである。

三 米商い慎むべき次第
米相場を志すなら、大酒、女遊び、博打は絶たなければならない。
相場が動かない時に、こうした慰み事をやっていて相場が動き始めたら即座に止める算段でいても、いざとなれば止めることができず、肝心の高下を取りはずすことが多いものである。
相場がいつ動きだすかは計れないものだし、陰極まって陽生ずる というように 小動きは大高下の始まりでもある。

相場の道は、風波に渡海する思い、武士が戦場に望む心 を以って掛け引きすべきものである。
曲がってしまっても、嘆かず、恐れず、驚かず、静かに思慮して事を先延ばしにしてはならない。
碁における『勝とうとして打つのではなく、負けないように打つべし』という心をもって、心身堅固 大勇猛の了簡で売買を行わなくてはならない。
この勇猛心がない人は、けっして相場をしてはならない。諺も 一胆 二運 といっているくらいである。




  相場戦略研究所 http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1289/