練習売買


 林輝太郎先生の本を始めて見たのは1991年の7月25日だった。
バブル崩壊後の下げをカラ売りで取ろうとしたが、逆に大きな損になり、
買いでやられ、売りでもやられ、精神的に追い詰められていたときだった。

「どうしたらカラ売りがうまくできるだろうか」「カラ売りの良い解説書はないだろうか」などと考え、都内の本屋で探していた。が、当時の株世界で“売り”はご法度。そんな本があるわけはなかった。

 勤めていた会社の用事で田町に来た帰りに、時間があったので駅のそばの本屋に立ち寄り、自然と株のコーナーに行った。
すると、そこに学術書のような分厚くりっぱなケースに入った林輝太郎先生の名著「商品相場の技術」があったのだ。商品相場の本なら「カラ売りのやり方があるだろう」と考え、中を読むと当然“売り”についての記述がある。手に取って時間を忘れて立ち読みした。

 カラ売りの虎の巻ではなかったが、『相場の練習』という初めてみる表現が心をとらえた。「鞘線」とか見たことも聞いたこともない資料もたくさん載っている。
買おうと思ったが7200円と高く、持ち合わせがなかったため、後ろ髪を引かれる思いで書店を後にした。

 『相場の練習』という、思ってもみなかった新鮮な方法論で頭の中が一杯になった。
「そうか、カラ売りがうまくいかなかったのは練習しなかったからだ。練習すれば儲かるようになる」
ただ、このときは机上の売買いわゆる「つもり商内」のことだと間違って理解していた。

 「相場の練習をして儲けられるようになろう」と決意した私は翌日、7000円を握り締めて再び田町の本屋に行った。(当時、大損して借金があり、利払いに追われていたため、7000円の買物も大決心だった) 

 すると「商品相場の技術」のそばに林輝太郎著「株式上達セミナー」がある。中を見るとこれまた、凄そうな内容。しかし「つもり商内はしてはいけない」とあるではないか。安易に机上で相場の練習をすれば儲けられるという思い込みが崩壊し大ショック。
が、「この本は買わないといけない」と思ったのだ。

 こちらは1850円。2冊は買えない。
”狐付きのような目をした銭の亡者”は本屋で約一時間まよった。
結局、株における練習の仕方に多くのページを割いている「株式上達セミナー」を選択したのだ。(「商品相場の技術」は二年後の93年12月28日、林輝太郎先生から直接 売っていただいた)

 林輝太郎先生の「株式上達セミナー」を買った1991年7月26日が私の再出発の日となり、それから自分なりの練習売買を開始して、以来 数年間、悪戦苦闘をすることになるのであった。