100年に一度のバカ大臣 鳩山総務相

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100年に一度のバカ大臣 鳩山総務相

○政権の正統性を問う (竹中平蔵

・何のための政権か
 麻生内閣の混迷ぶりに、引き続き内外から厳しい批判が寄せられている。民主党小沢一郎代表の公設第1秘書が逮捕されても、内閣に対する厳しい評価に何ら変わるところはない。この点は、最近の各種世論調査にも明確に示されている。

 政治の世界において、まず問われるべき重要問題がある。政権を担う「正統性」(レジティマシー)の問題だ。郵政問題への対処を見るかぎり、麻生内閣は民主主義と自由主義の根本を無視している。この2点を無視した内閣には、いまや政権を担う「正統性」が問われる。

 現政権は、平成17年の総選挙において与党が3分の2の多数を得たことに基盤を置いて成立している。いうまでもなくその選挙は、郵政公社を4分社化し民営化することの是非を問う選挙だった。現政権の経済無策は深刻だが、それ以前に、選挙で公約した郵政民営化を実直に進めようとしていないのが問題なのだ。

 まず実績をみておこう。日本郵政が民営化されてからまだ1年半ではあるが、西川(善文社長)体制は短い期間にかなりの実績を挙げている。第1は収益力の向上である。公社時代の国庫納付金に比べると、民営化された後の納税額はおおむね3倍になる計算だ。

 郵便需要の構造的な減少の中、郵政を公社のままで続ければ極めて深刻な赤字体質となることが予想されていた。民営化による業務多様化の本番はこれからであるが、出だしの収益力向上は朗報だ。第2に収益向上の結果として、郵便局の閉鎖が一気に減少した。国営であれば郵便局は減らないという「迷信」に反し、公社の4年間、年平均約50局の郵便局が閉鎖された。しかし民営化後の閉鎖はわずか1局のみ。簡易局の一時閉鎖も減少しはじめた。

 極めつきは、民間基準で「実質関連会社」を精査し、利権の巣窟(そうくつ)のような219社の関連会社をあぶり出したことだ。これまで国民に明らかにされてこなかったこうしたファミリー会社に、実に2000人もが天下っていた。日本の郵便料金はアメリカの約2倍の水準だが、こうした国民負担によって、ファミリー会社の権益が維持されてきた。民営化された郵政は、そうした膿を出させたのである。

 こうした中、今回のかんぽの宿売却問題が生じた。民営化決定の当時、かんぽの宿は105カ所、うち61カ所が運営収支(償却前)の段階で赤字、償却後はすべて赤字という信じがたい内容だった。つまりかんぽの宿は、地元への政治的な利益誘導や利権確保のために採算を度外視して作られたものであり、正真正銘の「不良資産」なのだ。だからこそ5年以内の処分が法律で義務づけられた。持っているだけで赤字がかさむものを一刻も早く処分するのは、当然の経営判断でもある。

 そのプロセスに、もしも問題があるなら、これをすみやかに解決し、売却を実現するのが郵政を所管する鳩山邦夫総務相の責務である。にもかかわらず鳩山総務相は、日本郵政の経営者を批判し、関係者の風評リスクをあおるような行為を重ねてきた。

 赤字を垂れ流し国民負担を増やすような施設をここまで作ってきた人間こそ批判されるべきである。にもかかわらず、メディアでもそれを売却しようとする側への批判ばかりが目立つようになった。そこに、麻生太郎首相自身が「郵政民営化に反対だった」と発言したのである。既得権益者の高笑いが聞こえるようだ。郵政民営化選挙で得た議席の上に内閣を運営する正統性はもはや存在しない、と言うほかない。

 ・自由な経営判断を脅かす
 民主主義からの正統性に加え、自由主義の視点からも正統性が疑われる。自民党は党則で「自由主義」の政党であることをうたっている。そもそも民営化とは「民間の経営に任せること」であったはずだ。たとえ政府が100%の株式を持っていようと、自由な“経営判断”を政治家や官僚がゆがめてはならない。経営判断は経営者に任せること、政府は介入しないという点は、過去の国会答弁でも確認されている。しかるに担当相は、経営判断に立ち入った介入を行っている。

 いつ資産を売却するかは、経営者が判断すべき問題だ。極めつきは東京中央郵便局再開発への介入だ。この問題は、増田寛也総務相の下で協議され、民間ベースの契約も終えているものだ。現地視察の様子はテレビにも映し出されたが、現場の関係者に大声をあげる鳩山総務相の姿は、さながら恐怖政治のようである。さすがに経済同友会代表幹事からも総務相批判の声があがった。政治の権力で民間の経営が脅かされるようでは、党の掲げる“自由主義”は有名無実だ。


 自由な市場という観点から言えば、そもそも「かんぽの宿の売却価格が安すぎる」という発言そのものが、常識を外れている。かんぽの宿は、かつて年間100億円超もの赤字を出していた。これがかなり改善されたが、それでも年間40億円の赤字を計上している。

資産の価値は、それが生み出す収益の割引現在価値で決まる。そんな事業に100億円というのは、売り手から見ればむしろ相当よい条件といえよう。入札をやり直すことになったが、その間の機会費用まで考えると、今回の事案で実質国民負担が増えることはまず間違いない。

何より、資産価格は何で決まるかという市場経済のイロハが理解されていない点に、政策当局への絶望的な不信感が広がる。

 麻生内閣の下で、日本経済のパフォーマンス(前四半期のGDPマイナス12・7%成長)は主要国で最悪のものとなった。一方で経済政策の規模はアメリカの半分以下だ。しかしこうした政策の失敗以前に、民主主義と自由主義の観点から、政権の正統性そのものが問われているのである。
(21.3.16産経新聞 竹中平蔵 ポリシー・ウオッチ)