ニコラス・ダーバス


書評 『私は株で200万ドル儲けた』

パンローリングから文庫本で『私は株で200万ドル儲けた』が出版されていて、去年から探していたのだが昨日ようやく買えた。 
文庫280ページ税込み840円

ダーバスが、昭和30年代に仕事でしばしば日本に来ていた事実は意外性があって親しみを覚えるし、株の連絡のために電報を打つ際、電電公社の職員にスパイではないかと疑われたという話は面白かった。

個人投資家が試行錯誤の大損を繰り返す苦悩の末、自立していくという過程は、立花さんの『あなたも株のプロになれる』に匹敵する。

脱アマ相場師列伝(旧版)の第三話ボックス売買法の主人公がこの本を読んで感激するというくだりがあるが、その気持ちはよくわかる。もっと早く読めばよかった。
ただ、ボックス売買法はダーバスが艱難辛苦の果てに個人的に練り上げた技術で真似して儲けるのは相当難しそうではある。本書の真の価値は、あやふやなボックス理論ではなく、ストップ・ロス・オーダー、ストップ・オーダー売買の実戦的教科書であるという点であろう。

そして、「高い株を買って、もっと高く売ろうと思った」という思い切りのよさは見事で、
・ボックスを上抜いた高値を逆指値で買って、
・ストップ・ロス・オーダーによって損失を限定する。
・見込みどおり、値上りしたらストップ・ロス・オーダーを吊り上げて、値上がりにとことんついていく。
という合理的戦略は再考してみる価値がある。

ダーバスも米国の大成功した相場師に共通する『すごーく強運な順バリ屋さん』の一人で順バリで値幅をガバッと何度も繰り返してつかんで大儲けしている。
信用取引の枠を目一杯使って満玉を張るという、とんでもなく危険な買い方もやっている。
こういった戦術は射倖性が強く、長続きはしないだろうなと感じた。

とはいえ、たとえ一時的にせよ、アメリカンドリームを実現し、大成功を収めた伝説的個人投資家ニコラス・ダーバスの冒険物語は我々投資家を永遠に魅了するのである。


☆ダーバスが得た教訓
1.投資顧問の言うことを聞いてはいけない。
  投資顧問は信頼できる存在ではない。
2.フローカーのアドバイスを聞いてはいけない。
3.格言は無視すべきだ。
4.店頭株に手を出してはいけない。売りたい時に買い手がいない。
5.うわさは無視する。
6.ギャンブル的手法よりファンダメンタルズのほうがまし。
7.短期間にに10種類の銘柄を売買するより、
  値上がりしている一銘柄を長期間保有すべきだ。
8.業績報告書、格付け、株価収益率は無価値である。
9.相場に対しては純粋にテクニカル分析で臨むのが有効。
10.相場は確率50%で確実なことはなにもない。
11.半分は間違うからストップ・ロス・オーダーを出しておくことで
  「クイック・ロス」*し、リスクを減らす。*初期消火的に早く損をすること。
12.株を買うときには逆指値「ストップ・オーダー」で上がり端を買う。
   同時にストップ・ロス・オーダーを必ず出しておく。
13.価格の上昇と平行してストップ・ロス・オーダーを
   吊り上げていくことで、小幅で利食いすることを防止する。

☆ストップ・ロス・オーダー
1957年の6~8月の間に、持株は全てストップ・ロス・オーダーにより売られてしまい、株価の下落を傍観者として見守った。これは大規模な強気相場が終わったためだった。

アナリストたちは数ヶ月後、弱気相場に突入したと宣言したが、後知恵で、遅すぎた。
株から手を引いた方がいいという警告は、必要な時には行われなかったのだ。
まして、自分には相場の歴史的大転換を感知する能力などはないが、株価が続落しているときに、ストップ・ロス・オーダーで早めに避難すれば、そうした能力は必要ない。私は相場の転換とほぼ同時に相場から脱出できた。
私の策戦は極めて有効であり、本当に悪い時期がくる前に私を救ってくれたのである。

ストップ・ロス・オーダーにより機械的に売却した株は、その後半値に落ち込み売値に戻ることはなかった。もしストップ・ロス・オーダーを置いていなかったら、下げ相場に正面から衝突し投資額の半分を失い、落ちぶれて自信を失う羽目になっただろう。

ストップ・ロス・オーダーは我が身を守る大切な武器であり保険である。
立派な家を建てたら火災保険をかけるのは当然だ。

☆ダーバスの危機
「利益でポケットが膨らんだ分だけ、頭が空っぽになって自信過剰になっていた・・・・」
 50万ドルの含み益が出て自信を深めたダーバスは大成功を疑わなかった。自分なりの投資技術をマスターし、音楽家絶対音感にも似た
ある種の第六感、変動感覚も身につけたという自信を得た。
電報だけで50万ドル儲けることができたのだから、証券会社のディーリングルームに乗り込んで、大金を動かす売買をすれば、さらなる大儲けは確実だと考えたのだ。

 しかし証券会社のディーリングルームに足を踏み入れ、情報の洪水に飲み込まれると、衆愚の一員となっていった。
・第六感が失われ、
・独立心を失い自分のやり方を捨て、他人の意見を取り入れた。
・投資技術、自制心、忍耐力、判断力、理性を失った。
・行動は本能に支配されたズブシロと同じになり、
 目先的な売買するようになった。
・慎重に作り上げた自分の投資システムは崩壊した。
 ストップロスは最初に放り出し、ボックスはすっかり忘れてしまった。

その結果、すべての売買は壊滅的な結果に終った。
この時期の売買は精神異常者の行動記録のようで、
天井で買いつける⇒買ったとたんに下げる⇒慌てて底値近辺で売る⇒
売ったとたんに上げ始める⇒強欲心が出て、また天井で買う 
というものだった。
証拠金が安かったためデイ・トレにも手を出して毎回数千ドルの損をした。
こうなってしまうと何をやっても失敗する。

結局、数週間で10万ドル損することになった。
こうした酷い状況の原因は自分の目と耳のせいだった。
ティッカーテープの価格情報を一日中見続け、うわさ、干渉、パニック、ブローカーとの会話、インチキ情報などの雑音が耳に入ってきた。
外国で電報だけをたよりに売買していたときは、限定した株だけを冷静に、中立の立場で、うわさなどに惑わされることなく、評価できていた。

最後には株を見るだけで身の毛がよだつ状態に陥った。
全財産をすってしまう前に、NYを離れようと思いパリに脱出した。

☆ためし玉
損をすることが多かった時期、さらに損を繰り返す恐れがあったため、慎重に行動しようと思い、試し玉を使うことにした。
実際に保有した方が、その株の値動きを敏感に感じることができるからだ。

ダーバスの試し玉の例 
試し玉 35 1/4ドル  300株
増玉1 36 1/2   1200株 
増玉2 40        1500株 

☆ニコラス・ダーバスの考え方

値上りしつつある株を売る理由はない

ツキは人生のあらゆる局面に存在するが、投資はツキを当てにしてはいけない。

秘密情報、インサイダー情報で買っても絶対に儲からない。

経験を積み思慮に富んだ専門家の教えに従っても絶対に儲からない。

金融界の予想屋が特定銘柄を推奨するのは証券会社の玄人筋が売るときである。

ウォール街の金言「利食い百人力」に従うと、まだまだ上がる株を売って、
乗り換えた株で損をして儲けを吐き出すことになる。
利食いして破産した人はいないというが、利食いした結果、
乗り換えた次の銘柄で破産することはある。

勝ち負けトントンでも手数料で破産する。

株も動物の群れと同じで業界ごとにグループを作り、同じ動きをする傾向がある。

株には人間同様、性格というものがある。

株には一定した価値はなく、需給で決まる価格があるだけだ。

「この世に良い株とか悪い株はなく、上がっている株と下がっている株が存在する。上昇している株は持ち続け、下落するものは売り払う。」

ダンサーが跳躍に備えて身をかがめるように、株も上がる前に押し目を作る。

安全のため、儲けた金の半分を証券会社から引出しておく。

税制の恩恵を受けるために値下がりしている株を長持ちすることは危険である。相場では正しい売買をすべきで、税金のことは儲けた後で心配すればよい。

持株の説明し難い動きは株式相場全般が荒れ模様になったときと合致する。株式相場全体の弱気相場、強気相場といった周期はほとんどの株に影響を与えている。

相場は下落しても永遠に下がり続けるわけではない。遅かれ早かれ上昇に転じる。
過去はいつも弱気相場の後に強気相場がやってきた。
最初の兆しを見つけたら高くなる前に買わなければならない。
自信に満ちた、ゆったりした気分で相場の潮流が変わるのを待つ。

紙の上のつもり商内をやったが、金をかけずにカードをしているようなもので面白みと刺激に欠けていた。金を賭けていなければ感情の抑制は容易いが、いったん金をつぎ込めば気迷いが生ずる。

感情を抑制するための訓練をした
買った理由と売った理由を書きとめ、損に終った売買は理由をメモに残し
「間違いリスト」を作った。

情報が限定される電報だけによる取引の利点
 一時に扱えるのは5~8銘柄が限界だったため、錯綜するジャングルのような多数の銘柄の動き、
 知る必要がない市場の混乱、噂、他人の意見、他人の行動から遮断された。




  相場戦略研究所 http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1289/